
『個人戦予選?第20戦』

吉留「どうしたの文堂さん、何か考え事?」
文堂「吉留先輩…
その…キャプテンに申し訳ないなって思って…」

文堂「掃除も買出しも、本来なら下級生である私がやるべき仕事です」

文堂「でもキャプテンは、私たち下級生の練習時間が増えるなら
そのほうが風越の為になるからと言って、
自分の練習なんてそっちのけで面倒ごとを引き受けてくれて…」

文堂「そうまでしてくれているキャプテンの期待に応えなければと、
私も一生懸命に努力してきたつもりでした。
でもなかなか上達せずに、コーチに怒られてはキャプテンに
庇われるという繰り返しで……。
私がしっかりしていれば、キャプテンはもっと練習に時間が持てて、
もっともっと強い人になれるんじゃないかって、そう思うと……」
吉留「文堂さん…」

吉留「私もね、文堂さんと同じように考えていた時期があったわ。
でも最近では、その優しさこそがキャプテンの
強さの秘密なんじゃないかって思うようになったの」

吉留「キャプテンは私たちのことをいつも考えてくれている。
それは一緒に卓を囲んでいる時も同じ。
例えば私がミスをしたら、私が気づかなくても
キャプテンがミスを指摘して、アドバイスをくれる。
私がいい打ち方をしたら、誰が気づかなくても
キャプテンが良かったねと褒めてくれる」

吉留「キャプテンは私よりも私のことを見てくれているの。
もちろん私だけじゃなくて、他の部員や対戦相手、そして文堂さんのこともね」
文堂「…」
吉留「そんなこと、誰にでも出来ることじゃない。
公式戦の最中、相手に勝とう、ピンチを切り抜けようって考えている時に、
相手の具合が悪そうだなとか、悩み事がありそうだなんて、
考える余裕はないでしょう?」
それに気づけちゃうのが、私たちのキャプテンなの」

吉留「だから私たちは、私たちに出来る限りでキャプテンを支えて、
一生懸命に練習を続けていけばいいんじゃないかな。
それに、私から見ても文堂さんは良く頑張っているわ。
実力も上がっているし、もっと自信を持っていいと思う。
文堂さんがそんな顔をしていたら、キャプテンがまた心配しちゃうわ」
文堂「吉留先輩…」

福路「あら、2人ともここにいたのね」
文堂「キャプテン!」
福路「備品を買いに外に出るのだけれど、ついでがあれば一緒に買ってくるわ。
何か欲しいものでもあるかしら」

文堂「いえ、買い物なら私が行きます!」
福路「別にいいのよ? お話の最中だったんでしょう」
文堂「いえ、行かせてください! お願いします!」
福路「そ、そう? そこまで言うのなら、文堂さんにお願いするわね。
買ってきてほしいのは、あれと、これと……」
文堂「わかりました、行ってきます!
……吉留先輩、ありがとうございました!」
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実況「個人戦予選第20戦の出場選手です。
各選手の能力について確認いたしましょう」
文堂星夏(T) 『通らばリーチ』
追っかけリーチが2役になる
福路美穂子(与)『洞察眼』
他家がリーチした時、その手牌を見ることができる
『開眼』
他家全員の手牌が福路に対して公開される
効果は局の終了までで、半荘中4回まで使える
片岡優季(M) 『タコスパワー』
対局開始前に東場で最大4順、ワンパイより先行ツモ
『タコス切れ』
対局開始後に南場で最大4順、牌を伏せたままツモ切り
国広一 (Y) 『牌すり替え』
次ツモを他家の捨て牌一列目とすりかえることが出来る
一局につき1回までで、半荘中4回まで使える

実況「解説の藤田プロ、この対局のポイントはどこになりますか」
藤田「牌すり替えを使い、驚異的なスピードを持つ国広一と、
リーチを看破し、開眼で完璧な立ち回りを見せる福路美穂子。
この両者の対決は見ものだ。
片岡は東場に全力を注ぎたいが、間違いなく福路が対応してくる。
いずれにせよ、福路の開眼の使い所が大きなポイントになるだろう。」
実況「ありがとうございました。
なおここまでの各選手の成績ですが、
文堂選手、2戦して?30の17位
福路選手、3戦して?17の14位
片岡選手、3戦して+25の7位
国広選手、3戦して+91の1位
となっております。
それではまもなく予選第20戦の対局開始となります」
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東家:国広(Y) 南家:片岡(M)
西家:福路(与) 北家:文堂(T)
『東一局』親:井上 ドラ3万
<東家・国広配牌>

<南家・片岡配牌>

<南家・片岡配牌(4順先行ツモ後)>

<西家・福路配牌>

<北家・文堂配牌>


実況「片岡選手、得意とする東一局で4順の先行ツモ」

実況「これに対して福路選手、早々に一回目の開眼です」
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実況「文堂選手、ここは西を落として勝負を避けます」
藤田「対面の片岡がマンズの染め手気配、ションパイの白は切りにくい」


実況「こちらも白を一枚抱えた国広選手、ここで4ピンを切って降ります」


実況「そして東場注目の片岡選手はこの手牌」
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実況「流局、全員がノーテンで東一局を終了です」

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『東二局一本場』親:片岡 ドラ1万
<東家・片岡配牌>

<東家・片岡配牌(3順先行ツモ後)>

<南家・福路配牌>

<西家・文堂配牌>

<北家・国広配牌>


実況「東二局では3順の先行ツモを経た片岡選手、
既に配牌からイーシャンテン!
ここで連荘をし、一気に勝負を決めたいところ!」


実況「しかしこれに対して福路選手が2回目の開眼!」
藤田「ここを流せば片岡のアドバンテージは無いも同然となる。
福路はあらゆる手を使って片岡の親を流しに行くだろう」


文堂「ポ、ポン!」

実況「福路選手が文堂選手に東を鳴かせました」

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片岡「チー!」

実況「なんとしても連荘したい片岡選手、ホンイツのテンパイ!
待ちは2ソウと6ソウです」

国広「ポン」

実況「片岡選手が切った發を国広選手がポン、3?6ソウのテンパイ」
藤田「福路が国広のアガリ牌を持ってくれば、即座に差し込むだろう」
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福路(これは通るのよ)

実況「福路選手が赤5ソウ切り!
これは国広選手・片岡選手に対して非常に危険な牌!
開眼を使った福路選手でなければ切れない牌と言っていいでしょう!」

文堂(……いける!)

実況「待っていたとばかりに、文堂選手が5ソウを合わせて切っていきます!
これで2・4・5万待ちのテンパイだ!」


実況「そして国広選手が2万をツモ切り!」

文堂「ロン」

文堂「タンヤオドラ1、2000は2300です」



実況「福路選手、他家を上手く利用して片岡選手の親番を飛ばしました!
見事な頭脳プレイです!」
藤田「福路の5ソウ切りが無ければ、文堂は片岡の染めを警戒して降りていただろう。
そうなれば片岡の和了、テンパイ流局での連荘が続いていたかもしれん」

実況「片岡選手、最大の見せ場である東一局・東二局でしたが、
福路選手の開眼の前に為すすべもありませんでした!」

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『東三局』親:福路 ドラ7万
<東家・福路配牌>

<南家・文堂配牌>

<西家・国広配牌>

<北家・片岡配牌(2順先行ツモ後)>

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国広(ここだ!)

実況「6順目の国広選手、この手から次ツモと対面の1ピンをすり替え!」

国広「リーチ!」

実況「6?9万待ちのリーチ!」

片岡「追っかけリーチだじぇ!」

実況「これを追う片岡選手は2?5万待ち!」


国広「ツモ!」

国広「リーチ一発ツモピンフドラ2、3000・6000!」




実況「国広選手がすり替えからの一発ツモで跳満を和了!
片岡選手の追っかけリーチを制し、さらに点数の奪いにくい
福路選手から親被りの6000点を引き出しました!」


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『東四局』親:文堂 ドラ4ソウ
<東家・文堂配牌>

<南家・国広配牌>

<西家・片岡配牌(1順先行ツモ後)>

<北家・福路配牌>

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実況「国広選手が2?5ソウ待ちのテンパイ、リーチには行きません」
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実況「片岡選手、ここで2ソウをツモり、5ソウを切りました」

国広「ロン」

国広「中ドラ1、3200」


実況「国広選手がさらにリードを広げて東場が終了、南場に入ります」

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『南一局』親:国広 ドラ8ピン
<東家・国広配牌>

<南家・片岡配牌(開始後1順のツモ切り)>

<西家・福路配牌>

<北家・文堂配牌>


実況「快調にトップを行く国広選手、ここでも好配牌」

実況「その国広選手を止めるべく、福路選手が三回目の開眼!」
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実況「国広選手、上家の7ピンをすり替えで持ってきました!」

国広「リーチ」

実況「3万を切り、5万と8万のノベタンでリーチ!
手にはドラが4枚! 跳満確定の大物手です!」

文堂(このままトップに走らせるわけにはいかない…!
なんとしても止めなければ…!)

文堂(対面が9万を切った! これを鳴けば三色のテンパイ!
親のリーチに5万は危険だけれど、リーチの現物待ちなら対面からも出やすい。
それに開眼を使っているキャプテンが3万を持っていれば、
ノミ手の三色になら差し込んでくれるはず!!)

福路(ダメ、文堂さん、その牌は…!)

文堂「ポン!」
文堂(この牌さえ通せば…!)

国広「ロン!」
国広「リーチタンヤオドラ5、18000!」


実況「こ、これは大きい! 国広選手の親っパネ!」
藤田「文堂の狙いも悪くはなかった。
もし5万が通っていれば、福路が手持ちの3万で差し込んでいただろう」

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『南一局一本場』親:国広 ドラ2ソウ
<東家・国広配牌>

<南家・片岡配牌(開始後1順のツモ切り)>

<西家・福路配牌>

<北家・文堂配牌>

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実況「場は終盤、片岡選手は發を鳴いて3ソウ待ちのテンパイ」

実況「福路選手はトイトイから手を崩してテンパイ維持」

文堂「リーチ」

実況「文堂選手が残り1順でリーチ、ハイテイ一発ツモを狙います」
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実況「流局です。国広選手以外の三人がテンパイとなりました」

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『南二局二本場供託一本』親:片岡 ドラ2ソウ
<東家・片岡配牌(開始後2順のツモ切り)>

<南家・福路配牌>

<西家・文堂配牌>

<北家・国広配牌>

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実況「場風の南をポンした国広選手、3回目のすり替えで上家の3ソウをツモ、
打5ソウで3?6?9ソウの三面張に受けました」
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国広「ツモ」

国広「南ドラ1、500・1000は700・1200」
実況「国広選手、まったく隙を見せません!
すり替えからアガリ重視の手をつくり、場を進めます!」

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『南三局』親:福路 ドラ9ソウ
<東家・福路配牌>

<南家・文堂配牌>

<西家・国広配牌>

<北家・片岡配牌(開始後3順のツモ切り)>


実況「福路選手、4回目の最後の開眼!」
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実況「福路選手がチートイツドラ単騎待ちでのテンパイ」


文堂(ハイテイ牌、ラスト一巡のツモに賭ける!)

文堂「リーチ!」

実況「文堂選手がタンヤオ三色の手でリーチ! しかしこの9ソウは…!」

福路「…ロン」

福路「チートイツドラ3、12000です」


実況「福路選手が文堂選手から親満貫を和了!
文堂選手の持ち点が0を切りましたので、対局終了となります!」

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実況「個人戦予選第20戦、トップを取ったのは…」

実況「龍門渕高校2年、国広一選手です!」

実況「藤田プロ、今回の対戦はいかがでしたか」
藤田「福路が片岡の出足を抑えてペースを掴んだかに見えたが、
国広の一発跳満ツモで主導権を握られ、
国広を止めようと福路の能力を頼った文堂が足元を掬われた。
それもこれも、起点は国広のすり替えからだ。
イーシャンテン時に他3家の18牌からテンパイを狙えるすり替えは、
他家に比較して格段にスピードが速い。
3回のすり替えが全て和了につながった今回は、
特に国広に展開が向いたといってもいいだろう」
実況「ありがとうございました。それではまた次戦でお会いいたしましょう」
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【対局後記】
1位 Y氏(一)
「過去三回、各人が使う国広君にわからされてきましたが、
こんな魔王だったなんて…。容赦なく行かせていただきました^^」
2位 与一氏(福路)
「能力もなかったし一ちゃんを止められるとは思わなかったのでここは固くいかせてもらいました
ごめんね文堂さん」
3位 M氏(片岡)
「東場なのに上がれないじぇ・・」
4位 T氏(文堂)
「通らばっ…! 通らばっ…! orz」
これまでの対戦結果は
こちら