
『個人戦予選?第14戦』

純 「そういや透華のやつ、どこ行ってんだ?」
一 「しばらく前に出て行ったきりだけど」
智紀「心配ない、歩が一緒に付いていった。
何か問題があれば飛び込んでくるはず」

歩 「た、助けてください?!」
智紀「…来た」
歩 「透華さまが、透華さまが、
まるで私の言うことが全く聞こえないような
状態になってしまったんです?!」

一 「聞こえないような状態って…
まさか、透華が冷たい透華に!?」
純 「それって、前に国広くんが言っていた…」
一 「…うん」

一 「去年のインターハイで東東京と戦った時のように、
透華はたくさんの強い相手に近づくと
まるで別人に変わってしまうことがあるんだ。
それは酷く冷くて、ボクたちに隙を見せてくれない、
もう一人の冷たい透華……」

一 (…ボクは怖いんだ。
透華が、別の人間になってしまうような気がして…)
一 「透華のところに急ごう!」
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一 「はあっ、はあっ…!
いた! …透華!」

透華「見出しはこんな感じでいかがかしら?
『龍門渕透華VS原村和 真のアイドル頂上決戦!!』
もちろん記事は一面トップ、見開きで特集を組んで頂きますわ!」
記者「さ、さすがにそれはちょっと厳しいかと…」
透華「心配ご無用! 広告費用ならいくらでも出しましてよ!」

透華「写真はこちらの角度からお願いいたしますわ。
もちろん私へのインタビュー記事は、一言一句たがわず
掲載してくださいな。 メモの準備はよろしくて?」
一 「…と、とーか?」
歩 「さっきからずっとこの調子なんです。
私がいくら声をかけても聞いてくれなくて、
人はどんどん集まってくるし、記者の方たちは困っているし……」
透華「目立ってなんぼ! 目立ってなんぼですわ!!
おーっほっほっほ!!」

一 「よかった、いつもの透華だ!」
純 「…国広くん、キミの反応も大概だと思うぞ」
智紀「少し頭を冷やしたほうがいい。 透華も一も」
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実況「個人戦予選、第14戦に出場する選手たちです。
各選手の能力について確認しておきましょう」
龍門渕透華(T)『リーチですわ!』
リーチが2役になる
天江衣(与) 『ハイテイラオユエ』
ハイテイ牌で確実に和了することができる
『場の支配』
他家のポンとチーが制限される
回数制限4回
南浦数絵(Y) 『東風』
東場で最大4順の不利
『南風』
南場で最大4順の有利
井上純(M) 『鳴き直後の捨て牌無敵』
鳴いた直後に捨てた牌では、
他家は鳴くことも和了することもできない

実況「この対局では龍門渕透華選手に注目したいと思います。
藤田プロ、この対戦をどうご覧になりますか」
藤田「衣の場の支配を受けては、井上は持ち味を発揮できなくなる。
面前でのリーチが強い龍門渕透華にとっては致命的な不利とまでは
ならないが、常に衣のハイテイ番に気を配らなければならないために
打ちまわしに制限が加えられることだろう。
その衣は、ハイテイまで局が進んでこそ力を発揮する。
南場に手が早くなる南浦を相手にするよりは、
東場から積極的に攻めていきたいところだ」
実況「ありがとうございました。
なおここまでの各選手の成績ですが、
龍門渕選手、2戦して?9の11位
天江選手、1戦して?9の11位
南浦選手、2戦して+13の8位
井上選手、2戦して+41の3位
となっております。
それではまもなく、予選第14戦の対局開始です」
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東家:天江(与) 南家:南浦(Y)
西家:井上(M) 北家:透華(T)
『東一局』親:天江 ドラ3ソウ
<透華配牌>


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井上「リーチだ」


実況「この対局、最初のリーチは井上選手! 1?4?7万の3面待ち!」



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実況「各選手冷静な打ち回しです。
場は流局、 井上選手のひとりテンパイとなりました」

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『東二局1本場・供託1本』親:南浦 ドラ5万
<透華配牌>

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衣 「チー」
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衣 「ポン!」

透華(こ、これは…!)


実況「天江選手、2フーロで自らをハイテイ番とし、場の支配を発動!
これで他の選手はポンとチーを封じられ、ツモ番を変えることが出来ません。
和了するか、カンでツモ順をずらさない限り、
天江選手のハイテイツモが確定します!

透華(とはいえ、2鳴きをした衣に甘い牌を打つわけにも……)

実況「天江選手はドラを4枚抱えての役無しテンパイですね」
藤田「衣には確実に和了できるハイテイ役があるからな。
形式テンパイでもハイテイ牌をツモれば和了できる」
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透華(くっ! ダメですわっ!)

実況「誰も和了できない! 無情にも天江選手の最後のツモ番となってしまった!」

衣 (ふん、他愛のない。 誰も衣の支配から逃れることなど……!)

衣 (あ……れ? 衣のツモが、ハイテイじゃない…!)

透華(??)

井上「……すまん」

井上「少牌だった」


一 「あっちゃー…」
智紀「少牌とは手牌が所定の枚数よりも少ない状態。通常はアガリ放棄が適用される。
少牌の原因としては、自摸を忘れて不要牌を捨てるなどのことが挙げられる。
少牌を犯したプレイヤーについては、その局はアガリ放棄の罰則が課される。
当然、山から2枚持って来たり河から余計に持って来て枚数を合わせる事は許されない。
通常、自己申告をする必要はない。(wiki参照」

衣 「衣のハイテイは…?」

実況「なんということか、井上選手の少牌でツモ順がずれてしまっていた!
変わってハイテイ順となった南浦選手、ツモ切りで流局となりました。
井上選手は親の南浦選手に対して4000点、子の天江選手と
龍門渕選手に2000点の罰符支払いとなります。
天江選手、ハイテイツモで満貫が確定していただけに、
精神的なダメージが大きいですね」
藤田「衣、かわいそうに…」

衣 (衣、なにか悪いことしたのかな…)

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『東二局1本場・供託1本』親:南浦 ドラ1万
<透華配牌>

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・

透華「ポン!」
(これでテンパイ、ここは軽?く和了ですわ)

井上(ってオイ、その鳴きは…!)

衣 「リーチ」


実況「龍門渕透華選手のポンで、ハイテイ順が天江選手に!
天江選手、リーチ宣言と共に2回目の場の支配を発動しました!」

透華(や、やってしまいましたわ!)

藤田「こうなると他家は厳しい。
放っておけばハイテイツモが確定、
阻止するためには危険な牌でも切っていかなければならない。
そうしてテンパイをしたとしても、和了できなければ衣の勝ちだ」
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・


衣 「ロン」

衣 「5200は5500」

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『東三局』親:井上 ドラ8ソウ
<透華配牌>


透華(よし、この手でしたら…!)
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透華「ツモですわ!」

透華「2000・4000!」

実況「龍門渕透華選手が満貫の和了! ここでトップに立ちました」

透華「さあ、勝負はここからでしてよ!」

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『東四局』親:透華 ドラ2ピン
<透華配牌>

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衣 「ポン!」

実況「天江選手、自らのポンでハイテイルートに乗ると、
3回目の場の支配を発動!」
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衣 「ハイテイまだかな?」

南浦「それです」

南浦「タンヤオドラドラ、5200」


実況「南浦選手、天江選手の場の支配を潜り抜けての和了!
苦手とする東場を、31200点で終了しました!」


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『南一局』親:天江 ドラ東



<透華配牌>


透華(トップとはいえ、衣に対して気は抜けませんわ。
それに、南場に調子を上げてくるというこの相手にも
注意しないといけませんわね)
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井上「リーチ」
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透華「リーチですわ!」

実況「破壊力抜群、2役となる龍門渕選手のリーチ!」

透華(この流れならば、純に遅れを取るようなことはありえませんわ。
圧倒的な注目を浴びて優勝し、真のアイドルとなるのはこの私!)


一 (とーかのダメなパターンだ…)
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・

透華(これではありませんわ!)

井上「ロン」

井上「メンピンドラ1、3900だ」


実況「競り勝ったのは井上選手!
南浦選手がトップに浮上しました」

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『南二局』親:南浦 ドラ2万
<透華配牌>

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南浦「リーチ」

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井上「リーチだ」

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南浦「ロン」

南浦「リーチイーペーコードラ1、7700」


実況「南浦選手、得意とする南場でさらにリードを広げました!」

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『南二局1本場』親:南浦 ドラ1万
<透華配牌>

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井上「ツモ」

井上「700・1300は800・1400」

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『南三局』親:井上 ドラ9万
<透華配牌>


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衣 「リーチ」

実況「天江選手、リーチとともに4回目の場の支配を発動!
しかしこれは、ハイテイルートには乗っていません」
藤田「他家の鳴きが制限されれば自分があがる確率は大きく上がる。
ハイテイばかりが衣の強さではない」
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衣 「ロン」

衣 「3900」

実況「天江選手がトップを行く南浦選手より3900点の和了!」

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『南四局』親:透華 ドラ6ピン
<透華配牌>


透華(衣のおかげでトップとの差は6300点。
逆転には2000オールのツモアガリ、
6400点以上の出アガリが必要……)

透華(オーラスでの華麗なる逆転勝利!
これこそ真のアイドルに相応しいフィナーレですわ!)
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・

透華「リーチですわ!!」

実況「13順目で親の龍門渕選手がリーチ!
あがれば逆転勝利となります!。
さあトップの南浦選手、どう対応するのか!」
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南浦(たとえリーチのみの手でも、振り込めば3900でまくられる。
無理をする必要はない。流局でも私のアドバンテージは続く。
ここは現物の3ピンで…)

衣 「ロン」



衣 「タンヤオ赤、2600!」


実況「天江選手が南浦選手より2600点の和了!
南4局開始時の得点差は6200点でしたが、
龍門渕選手のリーチ棒1000点がありますので、」
天江選手が南浦選手と同点になりました!
この場合、起家を起点として上家が上位となりますので…」

実況「勝ったのは天江選手! オーラスでの見事な逆転勝利となりました!」


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実況「個人戦予選第14戦、トップを取ったのは…」

実況「龍門渕高校2年、天江衣選手です!」

実況「まさに奇跡的な逆転勝利となりましたね」
藤田「東場での井上のチョンボでモチベーションが下がっただろうが、
よく持ち直した。 この逆転勝ちは執念とも思えるな」
実況「惜しくも2位となった南浦選手、3位の龍門渕選手はいかがでしたか」
藤田「南浦は南3局での衣への3900の振込みが痛かったな。
有利な南場とはいえ、点差を考えればベタ降りでもよかったはずだ。
龍門渕透華はメンゼンでの強さを活かす機会がなかった。
衣にハイテイを回すような鳴きもあったが、注意しないといけないな」
実況「ありがとうございました。それではまた次戦で、お会いいたしましょう!」
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【対局後記】
1位 与一氏(天江)
「衣が私に魔物の力を貸してくれました。
東2でしょげずに頑張ってよかったですわ。」
2位 Y氏(南浦)
「腹を抱えて転げまわる与一氏を、ただ呆然と眺めるしかなかった」
3位 T氏(透華)
「この日は元旦でしたね。
賽銭をケチったせいか、新年から勝負運がなかったです。
まー、びっくりしましたね、これは。
お世辞にも、与一氏は計算高い麻雀を打つ人ではなかったですから」
4位 M氏(井上)
「衣が優勝してくれてよかった。正直すまなかった・・・」
これまでの対戦結果は
こちら